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新しい朝
しの様リクエスト:サオトが買い上げたミカルのお話。先にヴィラ・カプリ「地下歓楽街 ウィア・ウォルプタエ」のペットショップでミカルをお味見くださいませ。ヴィラカプリhttp://villa-capri.sakura.ne.jp/ † † † 新しい朝 † † † ミカルの生活はあの日を境に激変した。「おはよう!」 起床時間は7時半。 寝坊していると、ミチルが起こしに来てくれる。 決して怒鳴ったりせずに。「おはようございます。」 小柄でくるくる変わる表情を持つ、私よりずっと年下の、 そんな”上司”に起こされる。 そして、服を着替えるように言われる。 しばらくパジャマを着て寝るなんて、下着を身につけるなんてなかった。 未だ慣れない。 食事は皆でリビングルームで取る。 このドムスに<犬>は私の他に1人。「おはようございます」 色の白い黒髪に青い瞳が印象的なクレールという名前の<犬>だ。 以前、地下で同じ店にいたときにはわずかに会話を交わしたことがある。だけど、特に瞳の色以外で印象に残らないタイプだった。 それでも、ご主人様にとって特別な<犬>らしいことはあの日すぐにわかった。 ご主人様と初めて会ったのは、地下のペットショップでだ。 いつものように、一晩買われて過ごす。 品定めするような視線はいつものことだったから、特に気にしていなかった。 最近、疲れを感じるようになっていた。 年齢のこともある。 若くて肌が綺麗で、元気な<犬>など掃いて捨てるくらいいる。 地下は、正直<犬>としてはランクがかなり低い。もっとも、そんなことを口にしようものなら店長の気に障る。 今日のご主人様は疲れているように見えた。 身体こそ割と元気に動いてくれたが、1ラウンドで終了してベッドに横になった。・・・その背中が疲れているのだと寂しいのだと言っているようだった。 うなじに手を当てれば、そこは石のように固くて。 打たないでくれた、優しくしてくれたお礼だと口にはしたが、ただ、この一晩だけでもくつろいで欲しいと思っただけだ。 いつ帰ったのかはわからない。 しばらく首と肩のあたりを指で押したり揉んだりして、寝息が聞こえてきたあたりで上掛けを掛け、ライトを落として一緒に寝たからだ。寒くないように。 2度目に会ったのは、やはり地下のショップでだった。 何度か私を買ってくれていたご主人様だったが、あの日の恐怖はまだ消えていない。 拘束されて、バイブを仕込まれて、ベッドに上がることを許されずしばらくの間床に置き去りにされた。 多少辛かったが、まぁ、良い。今日も過ぎるのを待てばいい。 1時間もしたころだろうか? 気を失っている<犬>――クレールが連れてこられ、ベッドに置かれるのを見ていた。 声をかけても、無視され、黙っていると打たれた。 そして、またふいっといなくなって、クレールが目を覚ましたときに、ちょうど帰ってきた。 挨拶をしなければと、身についた習慣で声を出すが、やはり気に入らなかったらしくバイブの振動を最大にされ、震え恐怖に怯えるクレールと狂気を孕んだご主人様の声を聞いていた。 たまに、ひどい加虐趣味のご主人様や変わったご主人様はいる。だけど、初めて目の当たりにする狂ったご主人様にただ私は怯えていた。 消防の警報が鳴ったときには、神の救いだと思った。 そして、ハスターティが入ってきて、このご主人様が入ってきた。 何かをつぶやいて、吐き戻したときには驚いたが、同時に、クレールがこのご主人様にとって大事なものであることも理解した。 そのあと部屋から連れ出されたから、何が起きたのか見ていない。 時折漏れるセバスチャンの英語が聞こえたが、長時間拘束から解放されて疲れ切った身体をミチルが撫でてくれ毛布を掛けてくれて、そうしているうちに銃声がした。 終わったのだと、ようやく心が安心した。 意外だったのは、ご主人様が私のことを覚えていてくれたことだ。 そして、促されるままにご主人様のドムスに連れてこられた・・・。「名前は、ミカル、でいいの?」「はい。ミカル・ベルツです。」 ドムの2階へ向かいながら、私より頭一つ小柄なミチルに尋ねられた。 ベッドがしつらえられた2階の部屋にまっすぐ通され、椅子に座るよう言われて戸惑った。数分1人で待たされたあと、ミチルがワゴンを押してやってきた。 IHの卓上調理器のコンセントを差して、ケトルでお湯を沸かしている間もミチルは話し続けた。「ココアは好き?」「よかった」「甘い方が良い?」「ちょっとミルク多めにしようか」 普段からやっているのだろう、戸惑いを感じさせない手つきを眺めていた。 カップに注いだとき、ミチルも飲むのだと思った。 だけど、もうひとつカップを用意しているのを見て、慌ててしまった。 心が慌てるだけで身体はだるく、すぐには動かない。床に降りなければと思うのに。「はい。熱いから気をつけてね」 差し出され、戸惑って見上げると微笑んだ顔。 手を伸ばさない私に、ほほえみが困惑を含む。「・・・?あ、そうか」 1人で納得した様子で、ミチルは私の手を取った。その手は、見目を裏切る力強さがあった。 なぜか自分の細い手が恥ずかしく思える。「カップで飲んでね。うちには<犬>用の皿は一階にしかないんだ」 洗い物を増やすなと言うことだろうか。 おずおずと受け取ると、ミチルは自分用のカップを手に取ってたったままふうふう息を吹きかけている。「へへ。僕猫舌なんだよ」 照れたように笑うミチルに、ようやく口元の力が抜けた。 熱いミルクの多いココアは美味しかった。 トイレもシャワーブースもある部屋から、出て良いものか悩んでいる。 もう、昼に近い時間。 昨晩、ミチルはココアを飲んだ後、バスタオルやパジャマ、下着、洋服を持って来た。『シャワー、浴びれるようなら浴びたほうがいいよ。あと、コレはミカルのだから。詳しい話は明日ね。』 驚いている私に、ミチルは少し急いでいる様子でそう言うとワゴンを下げて部屋を出て行ってしまった。 鍵をかけずに。 出されたものだから、着替えなくてはならないんだろう。 下着とパジャマを着るときも、朝洋服を着るときも、さんざん迷った。 叱られるのは別に構わないが、ミチルの笑顔やあのご主人様がどんな風に変わるのかは想像できなかった。想像できなくて怖かった。 部屋の中をうろうろしていた。 うずくまったり、四つん這いで歩いてみたり、ドアに耳をつけてみたり。 昨晩は、その前の恐怖のせいか、久しぶりに身につけたパジャマや下着のせいかなかなか寝付けなかった。寝返りを何度打っただろうか。深夜、かすかにドアが閉まる音が時間差をかなり置いて全部で7度聞こえた。 そうしてようやく眠れたのが明け方近くで、眠りは深かったものの、3,4時間程度で起きてしまった。 それからもうやはり3,4時間経過している。 何度かかすかな音がしているから、誰か起きているのだろう。 しかし、出てよいものかどうかがわからない。 疲れて、部屋の隅で壁に寄りかかってうとうとしていると、電話のベルがなった。 飛び起きて、ベッドのサイドテーブルに置かれた受話器を取る。『おはよう。もう起きてる?』 ミチルの声だった。 ほっとして起きていますと答えると、一階に降りておいでと言う。 そのまま受話器を切られそうだったから、「あっ」『ん?なに?』「服は・・・」『・・・服?』「服は、脱いだ方が・・・」 いいんですよね?と、全部を言い終わる前に、着たままでおいでと言われた。 おずおずとドアをあけると、大きなあくびをする声が聞こえた。 あわてて四つん這いになる。「ん?あ、昨日のヤツか。おはよう」 アジア系の顔をしているのに金の短髪の男が歩いてきた。 最初の言葉は、たぶん日本語で意味がわからなかったけど、おはようからの言葉は英語だった。「何してんだ?飯、行くんだろ?」 四つん這いのまま動けないでいると、手をさしのべられた。 意味がわからなくて見上げる。「ほら、立てよ。あ、どっか怪我してるのか?」 なんの含みのない明るい問いかけに首を振って、立ち上がる。彼は私より身長が少し低く私を見上げると何を不審に思ったのか、腰をがしっと掴んできた。 驚いて身体がすくむ。「なんだ。大丈夫じゃん。痛まないだろ?骨盤にゆがみもないし、肩もずれがない。さ、行くか。腹が減った。」 階段を下りて、促されるままキッチンが隣接したリビングに通された。 椅子を前にしてやはり戸惑ってしまう。 連れ立ってきた金髪の男とミチルと、長髪の赤茶の髪が印象的な男と、執事風の格好をした男がいた。 ミチルの顔を見つけてほっとしたものの、どうすればいいのかわからない。「おはよう」 それぞれが声をかけてくれる。 四つん這いになっていないし、服を着ているから、挨拶をするにも戸惑う。「・・・おはようございます」「座って。すぐにご飯だすから」 キッチンからミチルが声をかけてくれたので、テーブルの横、椅子が無いところにうずくまろうとした。 だが、赤茶の長髪の男が慌てる。「ああ、椅子に座って良いんだ」 肩を叩かれ、椅子を引かれる。 どうしたらいいのか、混乱してるがおずおずと座る。 皆が動き回っていて落ち着かず、小さくなっていると、テーブルの上にジュースやサラダやパン、卵料理が並んだ。 一通りコップや取り皿なども並ぶと、皆椅子に腰掛け自分に注目する。 ますます居心地が悪い。「昨日は眠れましたか?」 執事風の男が尋ねる。「・・・はい」「嘘はいっちゃいけないよ?」 ミチルに言われて、なぜか顔が熱くなったり、冷や汗が流れたりする。「・・・最初に自己紹介をしたほうが良さそうですね」「なぁ、食いながらでもいいか?」 執事風の男に気安く金髪の男が言う。あっさり、いいですよ、と朝食が始まった。「私はセバスチャン。当家の主人の秘書です。」「秘書っつーか、世話係?執事?片腕?」 金髪が混ぜっ返すと、執事風の男――セバスチャンは金髪に向けて、内情はおいおいわかっていけばいいんです。とぴしゃりと言い放つ。 ミチルと赤茶の男はくすくす笑っていた。「この、頭が軽そうなのがサトシ。昨日、話をしたので知っているでしょうが、ミチル。そして、彼はカエデ。ほかに、チャンとヒデアキがいますが、午後には帰ってきます」 紹介された彼らはパンにジャムを塗ったり、取り皿にサラダを取ったりしながらもいちいち頭を下げた。「あと、主人のサオト・・・は知っていますよね?」 セバスチャンの顔を見て頷く。「ミカル」 オレンジのジュースを注いでくれながら、セバスチャンが私の名前を呼んだ。「今日から、キミの住まいはここです。当家の事情は複雑なので、食事が済んだ後に詳しく説明します。ただ、ヴィラでのキミの主人はサオト様です。私たちは、ここに住んで彼の元で働いているスタッフです。」「使用人・・・とは違うんだよ」 セバスチャンの話に頭が追いつかないが、頷いた。「昨日からほとんど食べてないでしょ?ゆっくり、ちょっとでいいから食べて。今日は僕が作ったんだ」 ミチルがパンを渡してくれる。 朝早く起きちゃって、カエデとパン作ってたんだというミチルが渡してくれたパンは、まだほんのり暖かった。 手を使って食べるという緊張した食事は、私をよそに普段通りらしい。 途中、日本語に変わって話の内容がわからないが、険悪な様子になることはなかった。 笑ったり、真剣になったり、呆れたり。 どこにも、いやらしかったり、蔑んだり、罵声が飛んだりというような、私が馴染んだ空気がなかった。 自分の食事が終わると、各々空いた皿を運んで自分で洗った。 もたもたと食べていると、食べきれないならそれでいいよとカエデが声をかけてくれる。 それでも、なんとか取ってくれた分は食べきった。 皿を運んで洗う。フォークを使うのも久しぶりだったし、こうしてキッチンに立つのも忘れるくらい遠い昔だ。「洗います」 セバスチャンが空いた皿をテーブルの上でまとめていたから、そう言った。 微笑んで、じゃ、お願いします。と流しに運んでくれる。その後、彼はケトルを取り出して冷蔵庫からピッチャーに入った水を入れガスにかけて、キッチンの奥の扉から出て行ってしまった。 最後テーブルを拭いているミチル。 サトシとカエデは自分の食事が済むと出て行ってしまった。「ふふ。びっくりしてるでしょう」 洗い物を全て籠に置いて濡れた手に、乾いたタオルが掛けられた。 ミチルは台ふきを洗って、流し台にかけると白く湯気をだすケトルをガス台から下ろした。「ミチル、応接間で」 セバスチャンがリビング側の入り口から顔を覗かせた。 はーい。と答えて、ミチルは私にトレイを差し出し、その上にカップやポットを乗せていく。 そうしてケトルを厚いタオル地をしいて持ち、あっち。と言った。 白い、ふかふかのラグの上に座っていた。 ミチルはクッションを抱えて、セバスチャンは上着を脱いで、ポットに入れた緑の葉に湯を注いでソファに背を預けている。「ミントもそろそろ終わりだね」「ああ、あとは全て春になってからだな。」「それまでに土を作ったりしないと。棚が欲しいんだよね」 セバスチャンとミチルの、おそらく自分に気を遣ってくれて英語なのだろうが、会話を聞きながらどういう状況なのか、考えようとした。 だが、断片的な情報ばかりでまったくまとまらない。 しばらくすると、セバスチャンがポットから茶こしで漉しながらカップに注ぐ。爽やかな香りが漂った。「さて、本当ならサオト様から全て話を聞いた方がいいんだが、今、あの人はポルタ・アルブスに行っている。なぜかは、知っているか?」 食事前の少し丁寧な感じから、上から物を言うようなそんなニュアンスに変わっている。 そっちの方が楽で、頷いた。「だから、私からある程度の今のことやこれからのことを話すが、疑問やさらに詳しいことは後でサオト様に聞いて欲しい」 そうして、一杯のハーブティを飲む間にセバスチャンが話してくれた。 私がご主人様に買われたこと。 今日からここで暮らすこと。 ご主人様がヴィラに店をもつこと。 その店がアロマテラピーを主体としたヒーリングの店であること。 私もその店でいずれ働くこと。 そのどれもが自分に結びつけられず呆然とするしかないことばかりで。「ミチルとカエデがキミの指導に当たる。今日中に昨日までの住まいから自分の荷物を取ってくるように。」 そうして、一方的に締めくくるとカップの残りを飲み干して、セバスチャンは立ち上がった。「ああ、あと」 上着に袖を通しながら私を見た。「店に出るようになったらまた変わると思うが、普段は首輪が見えるように服を着て、立って歩くように。食事も私たちだけのときは椅子に座って。それと・・・」 私たちに性的奉仕はいらない。もちろん、互いが合意の上ならかまわないが、後始末は自分でするように。仕事に関係を持ち込まないように、と言った。 セバスチャンが応接間を出て行ったあと、ミチルは大きくのびをした。「・・・混乱するし、びっくりするしで大変だよね」 まったくだった。 昨日からいろんなことが一辺にありすぎて、興奮しているのか疲れているのかすらわからない。「ミカルがこれからするのは、お勉強と生活することだよ」「この年で、これから、ですか・・・」 勉強なんて、もうできないものだとばかり思っていた。 学びたいことさえもう遠い記憶の彼方だ。「年なんて関係ないと思うな。『人間、やるかやらないか。やりたいかやりたくないか、だ』ってオーナーの、あ、サオト様のことね、オーナーの口癖だよ。」 やりたいこと、やりたくないこと。そんな選択を求められることは久しくなかった。「ミチル、ミカル」 扉がノックされてカエデが顔を出した。 なんだか、名前が似ててややこしいなと言う彼に、ミチルは間違える度に罰金制にする?と笑った。「ミカルさえ良ければ、これから荷物を取りに行きたいんだが」 恐ろしい日と、その次の人生が再度一辺した日。 どんなことがあっても、時間は流れるし陽は沈みまた昇る。 わずかな荷物を取りに、ミチルとカエデと共に地下に戻り、また、ドムスに帰ってきた。 ドムスに帰ってくると、一階の真新しい部屋があてがわれた。昨日使った部屋は客間らしい。 トイレと風呂は一階の共同スペースで、ランドリーブースの説明や食事についても聞いた。 3時のティータイムを生み出して、それを受け継ぐイギリス人は素敵だよねと言って、もう5時近かったのだけど、そのときは紅茶にクッキーだった。 そのとき、カエデがカタログを持って来て、洋服や下着、リネンを数点選んだ。選んだと言っても、結局選べずに大半をカエデとミチルが楽しく談笑しながら選んだ。 カタログを見ている間に、がっちりとした男と、その後ろに静かについてきた男が帰ってきた。 がっちりした男――チャンは、ミチルが紹介すると、身体を叩くように触ってきて「筋肉をつけたほうがいい」と言った。静かについてきた男――ヒデアキはクッキーをつまみながら、よろしくと言った。 すっかり疲れ切ってしまい、夕食後早々に部屋に戻ってシャワーを浴びる気にもなれず、少しだけと思って、服のままベッドに沈んだ。 コンコン 扉をノックする音で目が覚めた。 暗闇でも見えるデジタルの時計は日付がかわったばかりの深夜を示していた。 聞き間違いかと思って、また枕に頭を乗せると再度ノックする音が聞こえた。 急に頭が覚醒して、扉を開ける。 内開きの扉を開けたところに、ご主人様がいた。 慌てて四つん這いになって、足下に口づけようとしたら、肩に手を乗せられやめさせられる。「今、いいかな?」 廊下の足下だけを照らす間接照明だけでは薄ぼんやりとしかわからなかったが、どこかさっぱりした様子だった。 はい、と返事をすると、ご主人様は部屋の電気をつけて、デスクの椅子を反転させて腰掛けた。 四つん這いのままだった私を手を振って呼ぶ。 扉を閉めてその足下に寄った。「・・・」 その瞳は私に向いているのにどこか遠くを見つめていた。 同時に、自分だけの自分を見てくれるご主人様ではないのだと頭が囁いた。 ご主人様は、私の頭を撫でて頬を滑り、首輪に触れた。「うん。服の色はやはり良かったね。お前にはピンクが似合う。」 茶色のチノパンに、ピンクに近い赤のストライプが入ったシャツ。ご主人様自ら選んでくれたのだと知る。 自分だけのご主人様ではないのだと分かっていながら、それでも嬉しい。 首輪が外される。 見上げている目に不安が浮かんだのを見てとったのだろう、苦笑して真新しい首輪が目の前に現れた。 光沢をもつやはりピンクの首輪だ。緑の蝶が入った幾分厚みのあるプレートがついている。 ご主人様によって、首輪が付け直された。「セバスチャンからある程度は聞いたか?」 頬にあるご主人様の手に擦り付くように頷く。「・・・。ミカル。返事は必ず声に出しなさい。これは私との約束だ。」 少しとがった声になったのに驚いて慌ててはいと返事した。「おまえにとっては、ひょっとしたら少し辛いことかもしれない。傷つくかもしれないが・・・。」 言いにくそうなご主人様の目を見る。「おまえは私の<犬>であって、私の<犬>ではない。地下で、希望をなくし疲れている仔はたくさんいる。そのなかで、まずおまえを選んだ。それは、私の元で良い仕事をしてくれると思ったから」 どうしてか悲しそうな色を帯びた。「ステディとしてお前を買ったんじゃない。共に仕事をして欲しいと、してくれると思ったから・・・。だから、仕事を覚えてヴィラの外で生きたいというのなら、それは構わない。ただ、私に、その、恋とか愛とかの愛情を向けても難しいとだけは覚えていてくれ。」 どうして、そんな辛そうにして言うのだろうか。 私はまだこのご主人様のことを何も知らないのに。ああ、知らないからこそ釘をさしておきたいのだろうか。 うつむいてしまったご主人様の膝に手を乗せた。「私は、もう大分な年です。何を手伝えるのかも、仕事をこれから覚えるにしてもお手をわずらわせるかもしれません。・・・ただ、私はあそこから出してくれた貴方に感謝しています」 ご主人様は、膝に乗せた私の手を取り、自分の頬に持っていった。「・・・そう。・・・これからは、自分のしたいことを見つけるんだ。それはひどく難しい。だけど、興味があるのなら何にでも首を突っ込むといい。まずは、カエデとミチルから一通りの店で行うリフレクソロジーやトリートメントなんかのサロンメニュー、アロマテラピーについて覚えてもらう。年齢のことは気にするな。私の国では40歳を過ぎてから学び始める人も多い。・・・情熱は絶やさないで欲しい。絶えそうになったら、ゆっくり休むんだ。頼って良いんだ。私は、ここにいる皆はいつでもお前を見ているから。・・・そして、好きな人ができたら、もしくはヴィラから出たいと思ったなら遠慮無く言って良い。応援する」 ときどき早口になったり、途切れたりしながら疲れを滲ませてご主人様は語る。いつかの晩、垣間見たご主人様の寂しげな影をぼんやり見た。――この人は何かに怯え、その何かに抗い続けているのだ。 だけど、私ではその真隣にはいられない。きっと、あのクレールという<犬>が収まるべき場所なんだろう。自分がその役ではないことに、寂しさを感じないと言ったら嘘になるけれど。「・・・はい。そのときには必ず」 そして、ご主人様は手のひらに唇を当てて、それから私の額に口づけた。 今日はおやすみ。慣れないなら服を脱いで寝ると良い、と言って。 次の日からはめまぐるしかった。 起床は7時半。起きたら顔を洗って服に着替えてリビングに行く。 朝食は当番制。あるいは、気が向いた人が手伝って作る。 自分で汚した皿を洗い、その日一日の簡単なスケジュールを確認する。 ミチルとカエデについてまわり、アロマのことや技術を教わり、時間があけば、洗濯や掃除をする。 その他、クレールと共にハーブの手入れをしたり、自主的に勉強したり、トレーニングする。一人でいる時間なんて寝るときくらいで、寂しいと思う暇もない。 両足で立つ時間が長くなり、最初のころは筋肉痛を起こした。情けないと思ったが、皆がんばっている証拠だとどうしてか褒めてくれ、痛みやだるさを緩和させてくれるというアロマやケアについて教えてくれた。 夜に本を読む時間を長く取りすぎて、頭痛や眼精疲労を起こしたときには年下の彼らに叱られた。 叱られるといっても、笑いながら。目の回りや頭皮の強ばりをほぐしてもらったりしながら。 焦ることは何一つないのだと、彼らは言う。 知識は何もかもを暗記する必要もなく、ノートに書いておいていつでも取り出せれば充分なのだと、彼らは言う。自分たちでさえ、まだまだ未熟なのだと。一生かかっても熟練することなどないのだと。 ご主人様が在宅の日には、その日一日あるいは、不在中にどんなことを覚えたのか、どんなことに興味をもったのか、何をしたのかを小一時間話し、おやすみのキスを額か頬にもらう。 毎日、新しい朝が始まる。
投稿日時: 2009-06-20 00:00:00 【ブログへ行く】
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「デスコネクション」の評価・レビュー
| このゲームの評価 | 管理者のコメント |
|---|---|
|
購入者9人の評価は4.0点
|
このゲームをプレイした人はまずまずの満足度を感じているようです。たくさんの人が高い評価をしており、ほとんどの人が充分に満足できる内容のようです。 ゲーム詳細を見る |
かなりのお気に入り
投稿日:2010-01-09




攻略キャラの殆どが、『マフィアで死神』というちょっと変わった設定。
絵がとても綺麗です。
キャラクターの個性も様々で、ストーリーもしっかり作り込まれています。
服や背景の家具の柄、街中のクラシックカーetc…素敵なんですよ〜。
ただ、残念な所。
最初から個別で攻略できたら飽きないかなと。
まだ攻略してないキャラクターのエピソードが出てきてしまう『2人ルート』は要らない気がします。... すべて読む
それなりに満足!
投稿日:2010-01-08




コンプして思ったのは、大団円的なHAPPY ENDより悲恋END的なEDを好む方に向いているのかな。という事。
今までの乙女ゲームには無いEDは、HAPPY END以外受け付けない人には耐えられないような気がしました。
キャラによっては、甘さが足らな過ぎないか?と思う事も…
ただ、それも一つの味として考えれば私的には満足出来なくもありませんでした。
惜しかったのは中盤。
ルート毎に微妙に違... すべて読む
最高!!!!
投稿日:2010-01-08




こういう乙女ゲームは初めてやったのですが、あたし的には最高のゲームでした!!
まず絵が綺麗です。ストーリーもあたしてきにはすごい面白かったです。マフィアっていうのが新鮮でしかも死神ってのもカッコイイです!!
どのキャラクターも個性があって、最初にいいなと思っていた人とは違う人を好きになっちゃいました(>∪<)
声優さんも最高です!!
続編とかあったらいいなー。 すべて読む
マフィアと死神
投稿日:2010-01-02




最初から攻略キャラが死んでいる(一人は除く)という、異色な設定です。 キャラはとてもいいと思います。 個性豊かで各キャラの過去等が他キャラ攻略中にとても気になって、次はこのキャラを暴いてやる!!と意気込みました。 EDもご都合主義ではなく、死んだ人間は蘇る事はないという事を徹底していて好感を持てます。 悲恋のようなニュアンスのものもありますが。
しかし、せっかくマフィアと死神というスリリン... すべて読む
「デスコネクション」についてみんなが質問しているのは?
Q.貴方が知っているBLゲームや乙女ゲームを書けるだけ書いてください。質問を...
貴方が知っているBLゲームや乙女ゲームを書けるだけ書いてください。質問をご覧になっていただきありがとうございます。題名に全て質問内容は書かれているのですが、BLゲーム(18禁も含め)や乙女ゲームを貴方が知っているかぎり書いてください。一応私が知っているゲームはこちらです。BLゲーム・コイビト遊戯・マスカレード 地獄学園・ラッキードッグ1・学園ヘヴン・俺の下でAGAKE・咎狗の血・みらくるのーとん・鬼畜眼鏡乙女ゲーム・薄桜鬼・ときめもシリーズ・緋色の欠片シリーズ・デス・コネクション・ビタミンシリーズ今思い出した物もありますが、今やっているゲーム以外のゲームを知りたいので、宜しくお願い致します。
A.BLはやったことがないので、乙女ゲームだけ失礼します。他の方や質問者様と被るものもありますが、・「Vitamin」シリーズ・「金色のコルダ」シリーズ・「遙かなる時空の中で」シリーズ・「ネオ・アンジェリーク」・「ラストエスコート」(1・2・クラブカッツェ)・「フルハウスキス」(1・2)・「ときメモGS」シリーズ・「ハートの国のアリス」シリーズ・「Lucian Bee's」(1・EVIL VIOLET・JUSTICE YELLOW)・「うたのプリンス☆さまっ!」・「薄桜鬼」・「きまぐれストロベリーカフェ」・「召しませ浪漫茶房」・「テニスの王子様」(学園祭の王子様・ドキドキサバイバル・もっと学園祭の王子様)・「アラビアン・ロスト」・「クリムゾン・エンパイア」(クリムゾン・ロワイヤル)・「STORM LOVER」・「Starry☆Sky」・「D.C.Girls Symphony」・「ユア・メモリーズオフ」・「らぶ☆どろ」・「トゥルーフォーチュン」・「ナデプロ!! ~きさまも声優やってみろ~」・「プティフール」・「幕末恋華 新選組」・「星空のコミックガーデン」・「リトルアンカー」








